地域金融機関と進める『事業承継・M&A』の実務プロセス
地域金融機関と進める「事業承継・M&A」の実務プロセス
承継・M&Aは会社の再設計プロジェクト。地域金融機関と連携することで、候補先探索、資金調達、交渉の公正性、PMIまで一貫した伴走を得られます。本稿は現場で使える手順と勘所をまとめました。
全体像:承継・M&Aを成功させる設計図
- 目的定義:後継者確保/成長投資/撤退最適化など、何を叶えるM&Aかを明確に。
- スキーム仮説:株式譲渡/事業譲渡/合併/会社分割/持株会社化 等。
- 価値評価:簡易評価→レンジ合意→詳細DD後に最終条件。
- 資金計画:自己資金+買収ファイナンス(長期借入/資本性/メザニン)。
- 契約・クロージング:基本合意→DD→最終契約→決済→PMI。
スキーム選定(親族・役員・第三者M&A)
| 類型 | 概要 | メリット | 留意点 |
|---|---|---|---|
| 親族内承継 | 株式・事業を親族に承継 | 文化の継続、関係者の納得感 | 税・資金計画、適性/育成期間の確保 |
| 役員・社員承継(MBO/MEBO) | 経営陣が株式を取得 | 現場知見、スムーズなPMI | 買収資金の調達力、担保/保証、希薄化設計 |
| 第三者M&A | 外部企業へ譲渡・統合 | 企業価値の最大化、成長資源の獲得 | 守秘/人材流出、のれん管理、文化統合 |
企業価値の考え方(簡易評価)
- 収益法:EBITDA倍率(同業レンジ)や簡易DCFで事業価値を算定。
- 純資産法:時価純資産(含み損益調整、簿外債務の洗い出し)。
- 比較法:上場/未上場の同業トランザクションを参照(地域/規模補正)。
売り手/買い手の事前準備
売り手
- 月次決算の整備(異常仕訳/私費混在の是正、在庫・固定資産の棚卸)
- 主要契約(取引先/賃貸/知財/人材)の整理、継続条項の確認
- ノンコアの切出し、不要資産/保証の解除計画
買い手
- 投資仮説(相乗効果、販売/調達/生産の統合シナリオ)
- 資金調達案:自己資金/買収ローン/資本性/メザニン
- PMI体制(統合責任者、100日プラン、KPI)
地域金融機関の関与ポイント
- 案件探索:地場ネットワークで候補先の紹介・匿名打診。
- 資金調達:買収資金の長期化・据置設定、信用保証/政策金融/資本性の組み合わせ。
- 公平性:利益相反の管理、複数行の同歩調形成。
- PMI支援:運転資金枠、在庫金融、与信/決済スキームの再設計。
デューディリジェンス(財務・税務・法務・人/オペ)
- 財務/税務:収益の持続可能性、簿外債務、在庫評価、税務リスク。
- 法務:許認可、重要契約の変更条項、知財/ブランド、労働法令。
- 人材/オペ:キーパーソン依存、歩留り/稼働、品質、サプライチェーン。
- IT/データ:基幹/会計/在庫/CRM、権限・ログ、個人情報保護。
価格・条件交渉と契約(表明保証/補償等)
- 価格構造:企業価値=事業価値+非事業資産−純有利子負債。NWC(運転資本)の通常水準で価格調整。
- 表明保証(R&W):財務の真実性、法令遵守、知財、訴訟等。特定補償(税務等)を個別に設定。
- アーンアウト:着地KPIに連動して後払。管理権限/測定方法を明確に。
- 競業避止・再雇用:売り手の一定期間の競業制限、キーパーソンの継続雇用合意。
クロージングと資金決済
- 先行条件(CP):許認可、取引先承諾、ローン契約、担保解除等の充足
- 価格調整:運転資本/現金負債の確定、クロージングアカウントの検証
- 決済:資金振込、株券/持分移転、取締役変更、登記
- ディスクロージャー:主要取引先/従業員への周知タイミング
PMI(統合作業)の実務
- 100日プラン:顧客/供給/人材の安定を最優先。価格・原価・在庫・与信の統合KPIを設定。
- 体制・権限:承認フロー、与信/購買/支払、情報開示の統一。
- システム:会計・販売・在庫・給与のコード体系統合(CSVブリッジから開始可)。
- 文化統合:会議体・評価制度・コミュニケーションルールを言語化。
よくある失敗と回避策
- 価格の早期固定:DD前に固定し過ぎ → レンジ合意+調整条項で柔軟性を確保。
- 運転資金の見落とし:NWC不足で資金ショート → ブリッジ枠とNWC調整を契約に。
- 人材流出:キーパーソンの処遇未合意 → 継続条件・インセンティブを事前合意。
- PMI軽視:クロージングで燃え尽き → 100日KPIと会議体を契約前から設計。
チェックリスト
- 目的(承継・成長・撤退)と成功指標を定義した
- スキーム仮説と税・法務・資金の整合を確認した
- 簡易評価レンジと価格調整/NWC条項の枠組みを合意した
- 買収資金(長期借入・資本性・メザニン)とブリッジ枠を設計した
- DD指摘の処理(価格調整or補償)と残余リスクのPMI管理を決めた
- 100日PMIの体制・KPI・会議体を事前に設計した
FAQ
Q. 地域金融機関に最初に相談する内容は?
目的・希望時期・売上/利益・EBITDA・借入残・資産状況、候補の方向性(親族/役員/第三者)を1枚に整理。守秘の範囲も確認しましょう。
Q. 企業価値はどう決まる?相場はある?
同業の倍率や簡易DCFを参考にレンジを作り、DD結果と条件(表明保証・補償・アーンアウト・NWC調整)で最終化します。
Q. 買収資金はどのように組む?
自己資金に加え、長期借入・資本性ローン・メザニン等を組み合わせ、据置や返済方式でCFに無理のない設計にします。NWCの増加分も忘れずに。
ご相談・支援メニュー
- スキーム仮説・簡易評価(EBITDA倍率/時価純資産/DCF)
- 買収資金計画(長期借入・資本性・メザニン)と地域金融機関連携
- DD対応(財務/法務/税務/人・オペ)と契約条件整理
- 100日PMIの設計(KPI・会議体・システム・人材プラン)
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