売掛“異常検知(EWS)”の実装(特徴量・閾値・ルール/ML・アラート運用)
売掛“異常検知(EWS)”の実装(特徴量・閾値・ルール/ML・アラート運用)
回収の敗因は初動の遅れ。本稿では、入金遅延や与信枠逼迫などの前兆シグナルを特徴量として設計し、 ルール+機械学習(ML)のハイブリッドで早期警戒(EWS)を構築。しきい値、エスカレーション、SLO/評価まで #58与信・#66督促・#72証跡一元化と連動する実装に落とし込みます。
全体像:EWSの設計原則
- 予兆重視:「期日超過」前に債務者の変調を掴む(支払行動・発注/返品・与信枠)。
- 二層構え:即効性のルール+継続学習のMLで誤検知と取りこぼしを低減。
- アクション着地:各アラートに標準処方箋(連絡テンプレ・出荷制限・担保要求)を紐づけ。
- 可監査性:シグナル→判断→処置の証跡を#72の案件IDで一元管理。
特徴量設計(シグナル一覧)
| カテゴリ | 指標/特徴量例 | 頻度 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 入金行動 | 期日遵守率、遅延日数の移動平均/分散、端数入金頻度、分納比率 | 日次 | 端数化は資金繰り悪化の典型 |
| 売掛/枠 | 与信枠使用率、連続上限ヒット、残高成長率、DSO/ADDの悪化 | 日次 | #58の枠と連動し出荷可否へ |
| 取引行動 | PO減速、返品率↑、値引要求増、出荷停止履歴 | 週次 | #71の契約条項・RMAと紐付け |
| 決済失敗 | 口座振替/カード失敗率、リトライ回数 | 日次 | #70の自動課金と連動 |
| 外部イベント | 役員交代、訴訟/差押え、官報、ニュース | 随時 | 外部フィードをフラグ化 |
| 在庫・納品 | 滞留在庫比率、検収遅延、出荷受入拒否 | 週次 | #68・#70・#72と連携 |
ルールベース検知(初期配備)
推奨ルール例
- R1:与信枠使用率≧95%が3日連続 → 次回出荷は入金後(#58)。
- R2:端数入金が2回/30日 → Bランクへ降格+一部前受。
- R3:期日遵守率が直近90日で-10pp → 営業/財務で訪問聴取。
- R4:口座振替失敗2回 → カード/前受へ切替提案、停止予告(#70)。
- R5:返品率が3σ超 → 納品/品質・請求根拠の再点検(#63/#71)。
しきい値設計
- 顧客セグメント(A/B/C・業種・サイト)ごとに別設定。
- 初期値は過去2〜3年の第80〜90パーセンタイルを採用し四半期レビュー。
機械学習の拡張(確率スコア)
- 目的変数:「期日+X日以内に未入金(=遅延)」の二値。
- 特徴量:上記シグナルに加え、季節性、取引年数、金額帯、契約条項(停止/担保)。
- モデル:初期はロジスティック回帰/勾配ブースティング。可説明性を重視しSHAPで要因可視化。
- 出力:遅延確率Pと要因トップ3。P≥0.6=赤、0.4〜0.6=黄、<0.4=緑。
- 意思決定:スコア帯に標準処方箋(交渉/前受・担保/停止)を紐づけ、半自動運用。
アラート運用・エスカレーション
- ルーティング:営業/財務/与信の責任者マップに基づき自動配信(メール/チャット/チケット)。
- テンプレ:#66の督促文面・#65の担保要求・#71の相殺ルールをワンクリック差込。
- エスカレーション:未対応24h→上長、48h→執行役員、72h→役員会アジェンダ。
- 出荷制御:赤判定は自動で与信ホールド、解除は入金確認or例外承認(期限付)。
SLO・評価・モデル運用
- アラート品質:Precision≥40%、Recall≥70%、AUC≥0.75を目安に段階引き上げ。
- 業務SLO:赤アラート対応開始90分以内、黄は同営業日内。
- ビジネスKPI:期限超過率、回収リードタイム、DSO、貸倒率、与信枠回転。
- 継続改善:四半期にアラート検証会(誤報/失報レビュー→ルール/特徴量更新)。
データ/アーキテクチャ
データフロー
- 会計・販売・収納・契約・検収ログを#72の案件IDで結合(DWH/データマート)。
- 日次バッチ+重要イベントはストリーム(決済失敗/枠超過)。
システム構成(例)
- ETL/DWH:入金/請求/PO/検収/返品/与信枠。
- EWSサービス:ルールエンジン+ML推論、閾値管理、ABテスト。
- 実行基盤:アラート配信、出荷ホールドAPI、チケット連携、ダッシュボード。
よくある失敗と回避策
- アラート過多:ノイズが多く無視される → 赤/黄/緑の3色と処方箋を必ず紐づけ。
- 根拠不明:ブラックボックス判定 → ルール公開とSHAPで説明可能性を担保。
- 行動に繋がらない:誰が何をいつやるか不明 → ルーティングとSLOを規程化。
- データ未整備:検収・相殺のログ欠落 → #63/#72の標準化を先に実装。
チェックリスト
- 顧客別の正常範囲と季節性を定義し、逸脱を捕捉している
- R1〜R5の初期ルールとしきい値が稼働している
- 遅延確率スコア(赤/黄/緑)に標準処方箋が紐づいている
- アラート→対応→結果の証跡が案件IDで保存されている
- Precision/Recall/AUCと業務SLOがダッシュボード化されている
- 四半期の検証会でルール/モデルが更新されている
FAQ
Q. まずはルールだけでも効果は出ますか?
十分出ます。R1(枠逼迫)とR2(端数入金)の2本だけでも初月から回収率が改善します。MLは誤検知低減と優先順位付けに段階導入が有効です。
Q. モデルの精度よりも現場運用が心配です。
スコア帯ごとに処方箋(連絡テンプレ・出荷制限・担保要求)を必ず定義し、対応SLOを設定してください。アラートはチケット化し、未対応は自動エスカレーションします。
Q. 説明責任はどう担保しますか?
ルールは公開・改訂履歴を保存、MLはSHAPなどで上位要因を提示。「なぜ赤か」をワンクリックで表示し、案件IDで証跡に残します。
ご相談・支援メニュー
- 特徴量/しきい値設計と初期ルール(R1〜R5)の実装
- 遅延確率モデル(ロジスティック/GBDT)と説明可能性の可視化
- アラート運用(ルーティング/テンプレ/出荷ホールドAPI/チケット連携)
- #58/#66/#72連動のダッシュボードとSLO/KPI運用設計
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