海外子会社との与信・移転価格×回収設計(インターカンパニー運用)

海外子会社との与信・移転価格×回収設計(インターカンパニー運用)

海外子会社は外部顧客ではないが、資金面では債務者です。本稿では、与信限度と決済条件、 移転価格と粗利配分、インターカンパニー契約、ネットティング/キャッシュプール、為替・税務留意まで、 #58〜#68の枠組みと接続して回収可能性を最大化する実務に落とします。

全体像:設計原則と責任配置

  1. 一体設計:与信限度・決済条件(サイト/通貨)・移転価格・税務・資金移動を同時に定義。
  2. 責任:本社財務=枠管理/ネットティング、事業=需要・返品、子会社=回収実務、税務=TP整合。
  3. KPI:グループDSO、インターカンパニー滞留額、相殺率、為替影響、未払期限超過率

グループ与信ポリシーと限度枠

  • 枠設計:子会社の自己資本・営業CF・国リスクを基礎に、60〜90日売上相当を上限目安(#58参照)。
  • 担保/保証:グループ内は原則不要。ただし資本関係が薄い関連会社にはLC/SBLC/保証も選択肢。
  • サイト/通貨:売買通貨は機能通貨に合わせる。サイトは月次締め30〜60日を基本、超過は役員承認。
  • EWS:入金遅延、在庫過多、営業黒字/資金赤字、監査指摘を早期警戒としてアラート化(#58/#64)。

移転価格と回収の一体設計

価格方式と資金フロー

  • コスト+マークアップ:製造/開発拠点で採用しやすい。標準原価・差異精算と請求サイトを同期。
  • 再販売価格法:販売子会社の粗利%をターゲット化。販促費/返品費を誰が負担するかを契約化。
  • 利益分割法:共同開発/無形資産寄与が高い場合。四半期で清算請求をルーチン化。

回収を埋め込む条項例

  • サイト超過時の延滞利息/値引調整の制限(相殺ルール)。
  • 返品・値引・RMAは承認コード必須、期間限定で遡及を制限。
  • 四半期TP調整と現金決済の期限(例:月末+15日)。

インターカンパニー契約(ICA)の必須条項

カテゴリ条項例狙い
決済条件通貨/サイト(n/30など)/延滞利息キャッシュ確保と遅延抑止
価格・費用TP方式、販促・保証・返品費の負担粗利・費用配分の明確化
相殺・控除相殺可否、控除の事前承認一方的な買い叩き防止
返品/RMA承認手順、数量・期限、再販/廃棄不正・長期滞留を防止
為替TTMレンジ/ヘッジ方針/差損益の帰属為替リスクの所在を固定
監査・情報在庫・売掛・KPIの定期報告可視化と統制

ネットティング/キャッシュプール/社内貸付

  • 月次ネットティング:多通貨債権債務を本社ハブで相殺清算。相殺率/KPIを設定。
  • キャッシュプール:物理/名目のいずれか。過少資本税制・利息控除制限に留意し、アームズレングス金利を設定。
  • 社内貸付:長期サイトや投融資はローン契約に切替、返済スケジュール・金利・財務制限条項(DSCR等)を明記。
  • 配当・ロイヤルティ:配当/使用料をカレンダー化し、現金還流を年次で固定化。

オペレーション:請求・消込・KPI

請求/消込

  • 案件IDとPOで突合(#63)。インボイス・出荷・検収・値引コードを3点照合
  • 入金遅延+2営業日で次回出荷を入金後に限定(#58)。

ダッシュボード

  • グループDSO、期限超過、相殺率、TP調整未決、為替影響、在庫深度(#64)。
  • 拠点別トップ10/ボトム10の是正タスク(担当・期限・期待キャッシュ)。

為替・税務・法規制の留意点

  • 為替:受取通貨と支払通貨を極力一致。ヘッジ方針(予約/オプション)とヘッジ会計の運用を文書化(#62)。
  • 税務:移転価格文書化(ローカル/マスター)、金利の独立企業間水準、過少資本・利息控除制限、源泉税。
  • 法規制:外為規制・配当規制・キャッシュプール規制、契約準拠法・紛争解決条項。

よくある失敗と回避策

  • 「社内だから払うはず」思考:延滞常態化 → ICAに遅延利息・出荷制限を明記し運用。
  • TPだけ最適化:キャッシュが動かずDSO悪化 → TP清算=資金移動を四半期で固定。
  • 為替ノーガード:現地通貨売上・本社通貨買付のミスマッチ → 通貨一致orヘッジで固定。
  • 相殺不可視:相互請求が林立 → 月次ネットティングの強制参加と締切設定。

チェックリスト

  • 子会社ごとの与信枠・サイト・通貨がICAに明文化されている
  • 移転価格方式と費用/返品負担、TP清算の現金決済期限が定義されている
  • 月次ネットティングと相殺率KPIが運用されている
  • 入金遅延時の出荷制限/遅延利息が運用されている
  • 為替ヘッジ方針・金利水準・税務文書化が整備されている
  • ダッシュボードでDSO・期限超過・TP未決・為替影響が見える化されている

FAQ

Q. 子会社向け与信枠はどのくらいが妥当?

60〜90日売上相当を上限目安に、自己資本・営業CF・国リスク・在庫深度で補正します。四半期ごとに見直しを。

Q. TP調整は仕訳だけで良い?

仕訳のみだとDSOが悪化します。四半期に現金清算を必須化し、ネットティングで同時決済する運用が安全です。

Q. 為替リスクはどちらが負担?

原則は販売子会社側(機能通貨)に負担させ、ヘッジ方針とレンジをICAに明記します。ズレる場合は価格式やサーチャージで調整します。

ご相談・支援メニュー

  • グループ与信ポリシー(枠/サイト/通貨/EWS)とダッシュボード設計
  • インターカンパニー契約テンプレ(価格方式・返品/RMA・相殺・為替・遅延利息)整備
  • ネットティング/キャッシュプール設計(規程・KPI・運用フロー)
  • TP清算と資金移動の連動(四半期現金化)運用構築

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本記事は一般的な情報提供です。各国の税制・外為・会社法、移転価格の要件は個別事情で異なります。導入前に最新の一次情報と専門家の助言をご確認ください。

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Shige