為替と価格条項の実務(建値通貨・ヘッジ・エスカレーター・サーチャージ)
為替と価格条項の実務(建値通貨・ヘッジ・エスカレーター・サーチャージ)
#87–88(国際与信/書類・期限)の続編。為替影響は契約設計×運用×ヘッジで管理します。 建値・決済・表示通貨の切り分け、フォワード/オプションの使い分け、価格エスカレーターと為替サーチャージ、 デュアルプライスや見積り有効期限、請求・回収の“ズレ防止”まで、現場で使える条項とフローを提示します。
全体像:為替リスクの分解
- 価格決定:建値通貨/見積レート/有効期限。
- 契約:エスカレーター/サーチャージ/決済通貨。
- 出荷・請求:インボイス通貨/換算方針(#88の書類整合)。
- 回収:期日までのヘッジ/相殺・控除(#76)/回収遅延の為替影響。
通貨設計(建値・決済・表示)
- 建値通貨(Quotation Currency):価格の根拠。原価通貨や競合慣行を考慮。
- 決済通貨(Settlement Currency):実際の支払受取通貨。決済銀行/現地規制を確認。
- 表示通貨:見積書の便宜表記。参考換算である旨を注記。
- 多通貨運用:#78のKPI整合:売上は期中平均、残高は期末、CFは実勢レートを原則に統一。
ヘッジ戦略(フォワード/オプション/内製ヘッジ)
① フォワード(為替予約)
- 期日・金額確定時に有効。分納はウィンドウ型や分割予約。
- 遅延リスク:#66/80の回収スケジュールに合わせてロール/反対売買の方針を定義。
② オプション(プット/コール)
- 急変ショック対策。保険料コストをサーチャージで回収設計。
③ 内製ヘッジ(ナチュラルヘッジ)
- 同通貨の仕入/費用をマッチング。ギャップはヘッジ上限(ヘッジ比率)を取締役会で承認。
価格エスカレーター条項
原材料指数や為替が閾値を超えた場合に価格を自動調整する条項。指数・基準日・トリガー・上限を明確に。
| 要素 | 設計例 |
|---|---|
| 指数 | USDJPY、LME金属指数、燃料サーチャージ指数 等 |
| 基準日 | 見積日/契約日/船積月の平均 |
| トリガー | ±3%超の乖離で自動発動 |
| キャップ/フロア | 四半期±5%の上限下限を設定 |
| 通知 | 発動時はT–7で事前通知、相手方に計算表を提示 |
為替サーチャージ条項
建値通貨と決済通貨の乖離を付随料金で調整。透明な算式と当月限定清算がポイント(#76)。
- 算式例:差額=(基準レート−実勢レート)×対象金額。
- 対象:本体価格のみ/運賃・保険を含む、のどちらかを明記。
- 清算:月次ネットティング(当月限定/承認番号必須)。
- 下落時の取り扱い:双方向(負のサーチャージで値引き)を定義。
デュアルプライスと見積り有効期限
- デュアルプライス:USD建と現地通貨建の二本立て提示。決定はPO時点のレートでロック。
- 見積り有効期限:例:レート±2% or 14日で失効。越えた場合は再見積。
- 実務:見積書に基準レート・参照元(仲値等)・更新条件を記載。
請求・回収運用(為替差異の処理)
- 請求:契約通貨=インボイス通貨が原則(#88)。表示通貨は参考換算として括弧表記。
- 入金差異:銀行手数料/為替差益損は別行で処理し、相殺は承認制(#76)。
- 分納:#80の分納合意に通貨・レート・ヘッジの規定を追記。
- KPI:#78のダッシュボードで為替損益を営業別/通貨別に可視化。
条項テンプレ(雛形)
① 価格エスカレーター
【価格調整(エスカレーター)】
第◯条 本契約の単価は、{{基準日}}の{{指数名}}を基準とし、当該指数が基準比±{{閾値}}%を超過した場合、
差異の{{調整割合}}%をもって翌請求分より自動調整する。調整幅は四半期あたり±{{上限}}%を上限とする。
② 為替サーチャージ
【為替サーチャージ】
第◯条 本契約の決済通貨は{{決済通貨}}とし、{{基準レート参照}}を基準とする。
基準レートと当月平均実勢レートの乖離が±{{閾値}}%を超過した場合、当月の請求金額に対し
差額=(基準−実勢)×対象金額によりサーチャージ(又は減額)を適用する。清算は当月ネットティングによる。
③ デュアルプライス/有効期限
【価格と有効期限】
第◯条 単価はUSD建{{単価USD}}および{{現地通貨}}建{{単価LCY}}の二本建とし、発注時にいずれかを選択する。
見積りの有効期限は発行日から{{日数}}日、または基準レートから±{{閾値}}%の変動までのいずれか早い時点とする。
④ ヘッジ方針(覚書)
【為替ヘッジ方針】
当社は、契約金額の最大{{ヘッジ比率}}%を上限として、フォワード又はオプションにより為替リスクをヘッジする。
著しい納期変更または分納が発生した場合、ヘッジのロールまたは解約差損益を協議のうえ按分する。
よくある失敗と回避策
- “USD建なら安全”の誤解:原価が他通貨なら逆にリスク。内製ヘッジを設計。
- 曖昧な算式:サーチャージの算式・参照元が不明確 → 算式・指数・日付を契約に明記。
- ヘッジと物流の分断:納期変更の連絡遅れでロール費用増 → #72の案件IDで一元連絡。
- 入金遅延の放置:フォワード期限切れ → #66/80に沿い48h初動+分納合意で期日を再確定。
チェックリスト
- 建値・決済・表示通貨の役割を契約書に分けて記載した
- 指数・基準日・閾値・上限を定義したエスカレーター条項がある
- 透明な算式のサーチャージ条項がある(双方向)
- デュアルプライスと見積り有効期限を運用している
- ヘッジ比率・ロール方針を覚書で明文化した
- 為替差額・手数料を別行処理し、相殺は承認制(#76)
FAQ
Q. サーチャージとエスカレーターは併用してよい?
併用可ですが、重複調整を避けるため、エスカレーター=自動単価調整、サーチャージ=短期乖離の月次清算と役割分担を明記します。
Q. 相手が現地通貨希望、当社はUSD建で売りたい。
デュアルプライスで提示し、PO時レートでロック。現地通貨選択時はサーチャージ条項を適用、ヘッジ費用を価格に内包します。
Q. 回収遅延でフォワードが切れた場合の損益は?
#80の分納合意にヘッジのロール/解約差損益の按分を規定。社内では#81のRACIで財務が最終責任を持ちます。
ご相談・支援メニュー
- 通貨設計(建値/決済/表示)と契約条項の整備
- 価格エスカレーター・為替サーチャージの導入(算式/指数/上限)
- ヘッジ方針(比率・ロール)とポジション台帳の運用設計
- #78ダッシュボード連携:為替損益の通貨別・顧客別可視化
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