赤字事業の“撤退・縮小・再生”を判断するための実務フレーム
赤字事業の“撤退・縮小・再生”を判断する実務フレーム
どんな企業でも「赤字事業」は発生します。しかし、最も危険なのは赤字そのものではなく、 “撤退・縮小・再生の判断が遅れること”です。本記事では、感情ではなく数字と基準で判断するための 事業ポートフォリオ管理のフレームを、中小企業向けに体系的に解説します。
1. 赤字事業が会社全体を蝕む構造
赤字事業は「放置すると徐々に効いてくる病気」です。問題は利益だけでなく、次のような副作用を引き起こします。
- 黒字事業のキャッシュが“補填”に消える
- 現場のリソースが奪われ、伸ばすべき事業に投資できない
- 経営会議が「火消し」の議論に偏る
- 撤退判断が遅れるほど損失が雪だるま式に膨らむ
中小企業の場合、1つの赤字事業が会社全体を揺らすことも珍しくありません。 重要なのは「早期に実態を把握し、判断すること」です。
2. まず“事業採算”を正しく可視化する
赤字事業の議論で最も多いのが「採算が曖昧」な状態です。 FLAGコンサルでは次の項目を必ず分解します。
(1)事業別の粗利・粗利率
売上ではなく粗利ベースで見ることが絶対条件です。
(2)直接固定費
人件費・外注費・専用広告費など、当該事業に紐付く費用を仕分けます。
(3)共通固定費の配賦
家賃・管理部門など共通費を、売上や人員で適切に割り当てます。
(4)事業別の貢献利益(セグメント利益)
この指標で「続けるべきか」の本質が見えます。
3. 撤退・縮小・再生を判断する基準
次のような条件で判断を行います。感情ではなく、基準で決めることが重要です。
(1)撤退を検討すべきケース
- 3四半期以上、粗利が改善しない
- 競争優位がなく、再生投資の効果が薄い
- キャッシュ消費が大きく、黒字事業を侵食している
- 市場縮小・構造変化により将来性が乏しい
(2)縮小を検討すべきケース
- 赤字幅は小さいが、リソース拘束が大きい
- 一部商品・チャネルに限定すれば黒字化が可能
- 採算の悪い顧客層を切り離すことで改善余地がある
(3)再生を狙うケース
- 強みが明確で、市場自体は成長している
- 単価改善・原価改善で粗利率が大幅に改善する余地がある
- 運営の非効率がボトルネックになっている
4. 再生を狙う場合の重点ポイント
再生には「売上を増やす」よりも粗利率と固定費構造の改善が効きます。
(1)粗利率の改善
- 値上げ・価格改定
- 仕入先交渉・原価見直し
- 高粗利商品へのシフト
(2)固定費の見直し
- 人員配置の変更(兼任・集約)
- 専用広告費の見直し
- 作業効率改善による残業削減
(3)顧客・商品の選別
- 低採算顧客の取引条件見直し
- 利益の薄い型番・商品カテゴリの削減
「全てを救う」ことを目指すより、コア領域に集中する方が成功確率は高くなります。
5. 撤退・縮小の実行ステップと注意点
撤退は感情的な決断が多いため、プロセスを整えて実行する必要があります。
(1)撤退・縮小のステップ
- ① 現状採算の精査
- ② 撤退基準との照合
- ③ 法務・労務・契約の確認
- ④ 顧客・仕入先への連絡計画
- ⑤ 在庫・資産処分
- ⑥ 撤退後の組織と費用構造の再設計
(2)注意すべきポイント
- 突然やめず、必ず「軟着陸」の計画を作る
- 顧客・従業員への丁寧な説明で信用を損なわない
- 撤退後の組織がスリムに再構築されているか確認する
6. よくある質問(FAQ)
Q. 感情的に「続けたい」事業があります。どう判断すべきですか?
経営判断は感情を否定するものではありません。しかし、まずは採算・将来性・リソースの観点で 客観的に評価したうえで、感情も含めて最終判断するのが最も健全です。
Q. データが整っていません。採算の可視化はできますか?
はい、できます。最初はざっくりでも構いません。売上・仕入・外注・人件費の大分類だけでも 事業の大まかな健康状態は把握できます。そこから徐々に精度を高めていきます。
Q. 撤退すると会社の評判に影響しませんか?
正しく撤退プロセスを踏めば、むしろ「無理をしない健全な経営」を評価されるケースが多いです。 事業を継続できずにトラブルを起こす方が、信用リスクは大きくなります。
7. ご相談・支援メニュー
- 事業別採算の可視化(粗利・固定費・貢献利益)
- 撤退・縮小・再生の意思決定基準の策定
- 事業再生プランの作成と実行支援
- 撤退に伴う顧客・従業員・取引先対応のサポート
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