事業承継で失敗しないための財務整理のコツ

事業承継で失敗しないための財務整理のコツ

「数字が整っていないまま引き継いでしまった…」を避けるために。負債・資産・在庫・売掛・評価・税務・ガバナンスまで、承継前にやるべき財務整理の型をまとめました。

承継前の財務整理:全体像

事業承継の要諦は、①実態の見える化②正常化③評価④税務/資本政策⑤承継後運用の順で進めること。数字を整えずに評価や株式移転に進むと、後戻りコストが大きくなります。

負債・資産の棚卸しと正常化

  • 役員貸付・貸付金:承継前に精算・契約化。相殺・分割返済計画を明確に。
  • 不要資産の切り離し:遊休固定資産や私物化した資産の売却/除却を検討。
  • 借入の構造整理:短期偏重の是正、長期化・金利見直し、メイン行の再定義。
  • 偶発債務の点検:連帯保証・担保提供・リース/サブスク契約の残存義務。
  • 実在性の検証:固定資産台帳・備品・車両の現物突合、保険・保証の適正化。

運転資本(在庫・売掛・買掛)の最適化

  • 在庫:滞留・陳腐化の整理、評価損の計上、発注点と回転日数の見直し。
  • 売掛:与信限度額の設定、回収サイト短縮、滞留債権の回収/放棄基準の明文化。
  • 買掛:支払サイトの最適化、サプライヤー集約、早期決済割引の活用。
  • 資金繰り表:月次12〜24か月のCFを可視化し、承継・投資・返済の三者均衡を確認。

企業価値評価と価格の考え方

中小企業の評価は、DCF、類似業種比率法、時価純資産法の併用が一般的。承継形態(親族内・従業員・第三者)に応じて重みづけを変えます。

  • 正常収益力の把握:一過性/私費的費用の調整(オーナー費用・特別損益)。
  • のれんの妥当性:継続可能な超過収益の検証、後継体制での再現性。
  • 価格と条件の分離:株価と「支払条件(分割・アーンアウト・役員報酬)」を分けて交渉。

税務・資本政策(自社株・持株比率)

  • 株式移転の設計:贈与/譲渡/相続の比較、納税資金の確保、特例制度の適用可否。
  • 持株の集約:分散株の買い取り/整理、議決権の設計、属人的株式の検討。
  • 資本・配当政策:内部留保の厚み、役員報酬の適正化、配当方針の明文化。
  • 資金調達:承継資金・納税資金のための融資/生命保険/信託の選択肢。

承継後のガバナンスと運用ルール

  • 経営会議の設計:月次KPI/資金繰り/投資可否を意思決定。議事録とToDo管理。
  • 職務権限規程:与信・購買・支払・投資・人事の承認フローを定義。
  • 関連当事者取引:価格・範囲・開示ルール(透明性)。
  • 後継者オンボーディング:6〜12か月の育成計画、外部メンター・顧問の活用。

よくある落とし穴

  • 私費・社費の混同:法人/個人の分離が不徹底で、評価も信頼も低下。
  • 棚卸し未完のまま価格交渉:後で偶発債務が発覚し条件見直しに。
  • 短期借入への依存:金利変動リスクと資金ショートの温床。
  • 税務だけ最適化:事業継続性や後継者の運用能力を軽視。

チェックリスト

  • 役員貸付・不要資産の整理計画が確定している
  • 在庫・売掛の適正化と評価損の処理方針がある
  • 正常収益力を算定し、一過性費用を調整済み
  • 株式移転の方法と納税資金の見通しが立っている
  • 承継後のガバナンス(会議体・権限規程)が設計済み

FAQ

Q. 承継前に借入は組み直すべきですか?

短期偏重や高金利が目立つ場合は、承継前に長期化・金利見直しを検討。返済原資の見通しを前提に、メイン行と計画的に進めます。

Q. 親族内と第三者承継で整理の優先は変わりますか?

大枠は同じですが、第三者承継はデューデリ対応が厳格なため、偶発債務・契約・在庫の実在性検証と、PMI(統合計画)の事前設計を厚めにします。

Q. 自社株の価格はどう決めますか?

正常収益力を基礎に、DCF/比率法/時価純資産法の併用でレンジを出し、価格と支払条件(分割・アーンアウト等)を分けて合意形成します。

ご相談・支援メニュー

  • 財務棚卸し(負債/資産/偶発債務)と運転資本の正常化
  • 企業価値評価(正常収益力算定・価格/条件設計)
  • 税務/資本政策(自社株・納税資金・持株比率)
  • 承継後のガバナンス設計とPMI伴走

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本記事は一般的な情報提供です。評価方法・税制・金融機関の方針は変更され得るため、最新の一次情報と専門家の助言をご確認ください。

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Shige