成長資金を確保するための『資本性ローン』の使い方
成長資金を確保するための「資本性ローン」の使い方
「成長投資をしたいが、自己資本が薄い…」という局面で有効なのが資本性ローンです。本稿では、仕組み・向いているケース・審査ポイント・実務フローを、通常融資やエクイティとの比較で整理します。
資本性ローンの基本(特徴と狙い)
- 自己資本みなし:一定の要件を満たすと、金融機関の自己資本比率評価で資本性として扱われやすい。
- 期限一括返済:期間中は利払いのみ、満期に一括返済(または条件付きで期限延長)。
- 劣後性:元本返済や弁済順位が通常債務より後ろ(金融機関のリスク緩和)。
- 業績連動金利:利益水準に応じて金利帯が上下する設計が一般的。
どんな企業・局面に向いているか
- 基幹刷新・新工場・大型DXなど、初期投資が大きく回収に時間がかかるプロジェクト。
- 成長過渡期で赤字〜薄利だが、受注パイプラインやKPIに改善の再現性がある。
- 通常融資だけでは自己資本比率が低下し、追加借入が難しくなる恐れがある。
- エクイティ調達は希薄化が大きく、オーナーシップを維持したい。
通常融資・エクイティとの比較
| 項目 | 資本性ローン | 通常融資 | エクイティ |
|---|---|---|---|
| 返済 | 満期一括(利払いのみ) | 元利均等/元金均等 | 返済なし(配当/Exit) |
| 財務指標 | 自己資本みなしで比率改善 | 負債増でレバレッジ上昇 | 自己資本増、希薄化 |
| コスト | 金利高め(業績連動) | 金利低め | 資本コスト高(希薄化) |
| 意思決定 | 経営権維持 | 経営権維持 | 希薄化・ガバナンス強化 |
| 用途 | 成長投資/長期回収 | 設備/運転資金 | 成長投資/買収等 |
審査で見られるポイント
- 事業性評価:ビジネスモデルの再現性、顧客基盤、競争優位。
- KPIの一貫性:売上・粗利率・回転日数・受注残・解約率などの改善トレンド。
- 資金使途の明確さ:投資内容・工程表・費目内訳・外注/機器の根拠。
- 返済可能性:期中の利払い能力、満期時の出口(再調達/分割返済/リファイ計画)。
- ガバナンス:月次決算・予実管理・社内体制・情報開示の継続性。
資金計画と財務インパクト
- 自己資本比率:みなし資本として評価されるため、比率の見かけが改善→追加借入余力の確保に寄与。
- DSCR/EBITDA倍率:期間中は元金返済が無い分、DSCRは改善。ただし利払い負担は増える。
- リファイ計画:満期前12〜18か月で、通常融資への転換や再設定のシナリオを準備。
- 組み合わせ:「資本性+長期設備+運転枠」の3層構造で資金ショックに強い設計が可能。
実務フロー(相談〜実行まで)
- 事前相談:メイン行へ計画概要・KPI・必要金額・用途を共有し、資本性の適合可否を確認。
- 計画書作成:投資目的・WBS・費目明細・効果試算(売上/粗利/効率化)・月次CF。
- 必要書類:直近決算・試算表・資金繰り表・発注見積・契約草案・主要KPI推移。
- 条件交渉:金利帯(連動条件)・据置事項・財務コベナンツ・情報開示頻度。
- 稟議〜実行:実行後は月次で予実/KPIを共有し、満期前レビューを定例化。
契約条項で押さえるポイント
- 金利の連動条件:利益や資本の水準で階層が変わる場合の定義・計算式。
- 配当/役員貸付の制限:逸脱時の是正措置・みなし条項。
- 期限の利益喪失事由:財務コベナンツ、情報未提出、重大な契約違反の扱い。
- 他債務との順位:劣後条項の明確化(担保設定の可否)。
- 満期時の選択肢:期限延長の可否、通常融資への転換手続き。
よくある落とし穴
- 満期の出口が曖昧:リファイ計画を持たずに実行→期近で資金ショック。
- “資本だから安心”の誤解:利払い負担は継続。営業CFの改善計画が前提。
- 投資と運転資金の混在:費目が曖昧だと審査が通りにくい。投資=長期、運転=短期を明確に。
- 情報開示が続かない:月次共有が止まると信頼低下。定例会を決めて運用。
チェックリスト
- 投資計画(WBS・費目・効果)と月次CFを準備した
- 自己資本比率・DSCR・EBITDA倍率の改善効果を試算した
- 満期12〜18か月前にリファイ検討会を設定した
- 情報開示(試算表・資金繰り・KPI)の定例運用を定めた
- 契約条項(連動金利・劣後・コベナンツ・配当制限)を理解した
FAQ
Q. 赤字でも資本性ローンは使えますか?
はい。成長投資の再現性と返済原資(将来の営業CF)が説明できれば検討対象です。KPIの改善計画が鍵になります。
Q. 通常融資との併用は可能?順番は?
可能です。先に資本性で比率を補強→長期設備・運転枠を追加の順が通りやすいケースが多いです。
Q. 金利が高いのが不安です。どう判断する?
希薄化を避けて資本厚みを確保できるメリットと、利払い負担を比較します。投資による粗利改善で十分に吸収できるかを月次CFで試算しましょう。
ご相談・支援メニュー
- 資本性ローン適合診断(KPI・CF・比率の事前試算)
- 投資計画・費目定義・効果試算(銀行提出パッケージ)
- 契約条項レビューと条件交渉の伴走
- 満期前リファイ計画と通常融資の組み合わせ設計
相談してみる(無料) 関連:サービス|事例
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