運転資本KPIを経営目標に組み込む実務(売掛回転・在庫回転・買掛サイト/CCC)

運転資本KPIを経営目標に組み込む実務(売掛回転・在庫回転・買掛サイト/CCC)

現金は最良の安全余力。本稿では、DSO・DIO・DPO・CCCを経営KPIとして定義し、日次の可視化と 例外運用、四半期の目標再設定まで、現場が回せる手順に落とし込みます(#58〜#63と連動)。

全体像:KPI設計と組織運用

  1. KPI定義:経営目標としてCCC短縮を掲げ、サブKPIにDSO/DIO/DPOを設定。
  2. 責任配置:営業=DSO、購買/生産=DIO、財務/購買=DPOの共同責任を明文化。
  3. 頻度:日次の速報、週次レビュー、月次締めの改善会議、四半期で目標再設計。
  4. 連動:#58与信/#59資金/#61下請法/#63電子契約とルール連携(出荷可否・検収・支払)。

KPIと計算式(DSO/DIO/DPO/CCC)

KPI意味代表的な計算式(期間:月/四半期)
DSO(売掛回収日数)売上から入金までの平均日数DSO=平均売掛金 ÷ 期間売上高/日数
DIO(在庫回転日数)仕入〜販売まで在庫が滞留する日数DIO=平均棚卸資産 ÷ 売上原価/日数
DPO(買掛支払日数)仕入から支払までの平均日数DPO=平均買掛金 ÷ 仕入/日数
CCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)現金回収までの総日数CCC=DSO+DIO−DPO

ターゲット設定とセグメント運用

  • ターゲット:全社値に加え、顧客セグメント・SKU群・拠点などの粒度で上限/下限を設定。
  • 安全域:上限(DSO/DIO)と下限(DPO)のバンドを設計し、アラートの感度を調整。
  • 四半期見直し:価格/為替/物流/季節要因を織り込み、次四半期のバンドを更新。
  • 例外:戦略顧客・新規SKUは期限付き例外(値戻し条件/粗利閾値を明記)。

日次〜週次ダッシュボード運用

日次(速報)

  • 入金・出荷・仕入の前日実績滞留アラート(期限超過債権、上限在庫、枠超過仕入)。
  • DSO/DIO/DPOの7日移動平均異常値検知(EWS)。

週次(運用)

  • 顧客別DSO、SKU群DIO、仕入先別DPOの散布図トップ10/ボトム10
  • 是正タスク:回収短縮、滞留処分、サイト延長交渉の担当/期限/期待効果を明示。

改善アクション:売掛・在庫・買掛

売掛(DSO短縮)

  • 締め直し(半月→週締め)、早期振込割引(例:2/10, n/30)、一部前受(#59)。
  • 出荷可否を与信スコア×枠使用率で自動化(#58)。
  • 請求の日次発行と検収自動化(#63)。

在庫(DIO短縮)

  • ABC分析→C在庫の補充停止、VMI/直送化、MOQ/LOT再設計(#59)。
  • 滞留の値引き即時処分、需要変動に合わせた安全在庫の再計算

買掛(DPO適正化)

  • 主要仕入先とサイト延長を交渉(対価:発注平準化・長期契約)。
  • 下請法の60日以内に準拠しつつ、電子決済で実務簡素化(#61)。

例外承認と月次ガバナンス

  • 例外台帳:顧客/SKU/仕入先ごとに理由・期限・見直し条件(値戻し/在庫圧縮)を記録。
  • 会議体:月次でCCC・E2Eを横断レビュー(営業/生産/購買/財務)。
  • インセンティブ:営業KPIにDSO、SCMにDIO、購買にDPO改善を加点
  • 監査:証跡は「検索1分」で出力(契約・検収・請求・入金/支払)。

よくある失敗と回避策

  • 全社一律目標:季節/商流差を無視 → セグメント別バンドと例外期限を設定。
  • 帳尻合わせ:月末の一時的圧縮 → 日次運用と原因別タスクで持続的に。
  • 指標の独り歩き:DSO短縮で売上機会を毀損 → 粗利・在庫深度とセットで意思決定。
  • データ不整合:会計と販売在庫が合わない → 共通キー(案件ID/品目/得意先)で統合。

チェックリスト

  • DSO・DIO・DPO・CCCの定義と算式が文書化されている
  • 全社とセグメントの目標バンドが設定されている
  • 日次ダッシュボードで異常検知是正タスクが回っている
  • 例外は期限・条件とともに台帳化されている
  • 契約・検収・請求・入出金が案件IDで紐付いている
  • 月次会議でCCCとE2Eの横断レビューが行われている

FAQ

Q. まず最初に改善すべきKPIは?

短期の資金効果が大きいのはDSOとDIOです。請求/検収の自動化と滞留在庫の即時処分から着手し、並行して主要仕入先のDPO交渉を進めます。

Q. 目標値の決め方は?業界ベンチマークは参考にすべき?

まず自社の過去実績(四半期〜1年)と季節性でバンドを設定し、顧客/SKU/拠点別に微調整。公表ベンチマークは参考値とし、実際の商流とリードタイムに合わせて現実的に定義します。

Q. 目標達成が売上に悪影響を与えないか心配です

営業評価に粗利とDSOを併記し、戦略顧客には期限付き例外を設定。値引きではなく前受・早期振込割引・ロット平準化など代替手段を活用します。

ご相談・支援メニュー

  • DSO/DIO/DPO/CCCの定義・算式・テンプレとダッシュボード構築
  • セグメント別バンド設定と日次EWS(異常検知)設計
  • 与信・検収・請求・在庫・購買をつなぐE2E運用の標準化
  • 四半期レビューとインセンティブ連動の制度設計

相談してみる(無料) 関連: サービス事例

本記事は一般的な情報提供です。KPIの定義・測定・運用は業種/商流/システムにより適合が異なります。自社実態に合わせて調整してください。

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Shige