代理店/小売チャネルの相殺・チャージバック統制(デビットノート運用)

代理店/小売チャネルの相殺・チャージバック統制(デビットノート運用)

量販・EC・代理店取引では、一方的な控除(相殺/チャージバック)が恒常化しがちです。本稿では、 取引基本契約(#71)と照合運用(#63/#72)を前提に、デビットノート運用・算式・承認・KPI・監査まで 実務で回すための設計図を提示します(#69ネットティング/#74出荷判定とも接続)。

全体像:統制の設計原則

  1. 原則禁止・例外承認:相殺は契約で原則禁止、事前承認+根拠書類がある場合のみ例外。
  2. コード化:値引/販促/RMA/欠品/遅延/物流/棚割 などチャージ種別コードを共通化。
  3. 3点照合:請求・検収/RMA・デビットノートの内容一致を機械判定(#63/#72)。
  4. 締めと相殺:月次ネットティング(#69)でのみ相殺清算。当月以外の遡及は原則不可。

契約条項(相殺・ペナルティ・RMA)

  • 相殺禁止:相手方の一方的相殺・控除を禁止。控除は事前書面承認と根拠書類提出を条件。
  • ペナルティ上限:欠品/納期遅延などのペナルティは上限率算式(下表)を明記。
  • RMA/返品:承認番号必須、期間/状態/数量の基準、再販・廃棄の扱い(#71)。
  • 販促費:協賛・リベートは事前合意書成果証跡を条件に、控除はネットティングで処理。
  • 通知:デビットノートの提出期限(例:発生日から30日以内)と不備時の却下権

運用:デビットノート承認フロー

  1. 受付:専用窓口(メール/ポータル)。案件ID・請求番号・根拠書類を必須項目。
  2. 自動チェック:コード/金額/対象期間/重複を機械判定。閾値超は役職承認へ。
  3. 3点照合:請求・検収/RMA・契約/発注の合致を確認。不一致は却下または差額支払へ。
  4. 決裁:金額帯承認(例:〜50万円=課長、〜300万円=部長、〜1,000万円=役員)。
  5. 清算:月次ネットティングで相殺、または別建て請求で処理。
  6. 台帳:例外承認は満了日と理由を台帳化(#64)。恒常化は契約見直しへ。

算式と根拠(チャージバック種別別)

種別コード代表例算式/上限根拠書類
CB01欠品/納入遅延対象SKU売価×影響数量×上限10〜15%PO・納入実績・店舗/倉庫受領記録
CB02物流ラベル/梱包不備再加工費または定額(1梱包あたり◯円)検品写真・不備レポート
CB03棚割/陳列違反是正費用の実費(上限あり)店舗監査票・是正報告
CB04販促/広告協賛合意金額(事前合意書必須媒体証跡・実施報告・請求書
CB05返品/RMARMA承認数量×合意単価(再販/廃棄で異なる)RMA承認書・検収記録・写真
CB06品質/リコール回収・交換・処分の実費(上限・範囲を契約化)検査報告・回収リスト

3点照合と案件ID紐付け

  • 3点:①請求(INV)、②検収/RMA(ACP/RMA)、③契約/発注(MSA/PO)。
  • 照合ルール:コード一致、数量・単価・期間一致、案件IDリンク必須(#72)。
  • 差額処理:差額は別建て請求次月相殺に限定、翌月以降の遡及は禁止。

月次ネットティングと支払手順

  • スケジュール:締日+◯営業日で提出締切、本社ハブで相殺計算、支払日前日に確定明細配布(#69)。
  • 相殺率KPI:相殺対象は承認済みのみ。未承認控除は支払停止の規程を周知。
  • 為替/多通貨:通貨別サブネットティング、為替は契約レンジ/TTMで統一(#62/#69)。

ダッシュボードとKPI

  • 金額統計:チャージバック金額、売上比率、種別別・得意先別のトレンド。
  • 運用:提出期限遵守率、却下率、再提出率、承認リードタイム。
  • 回収影響:相殺遅延によるDSO押上、未承認控除件数、例外比率。
  • 品質起点:欠品率、物流不備率、RMA率(#68/#74の是正タスク連動)。

監査・証跡・権限

  • 証跡保管:デビットノートPDF、根拠書類、承認ログを案件IDで7〜10年保存(#72)。
  • 権限分離:受付/照合/決裁/会計記帳を分掌。高額は二重承認
  • サンプリング監査:月次で一定比率を抜取、根拠→算式→契約の整合を検証。
  • 対外通知:未承認控除の常習先には契約違反通知と是正計画の提出を求める。

よくある失敗と回避策

  • 暗黙許容:小口を見逃し慣例化 → 却下/再提出を厳格運用、相殺はネットティング限定。
  • 証跡薄弱:“店舗指摘”だけで控除 → 写真/監査票/受領記録の必須化
  • 遡及の雪だるま:年度跨ぎで巨額控除 → 提出期限と当月限定規程を徹底。
  • 販促費の野放し:事後請求 → 事前合意書と成果証跡が無いものは不承認。

チェックリスト

  • 相殺禁止と事前承認+根拠書類の条項が契約に入っている
  • チャージ種別コードと算式・上限が定義されている
  • デビットノート承認フローと金額帯承認が運用されている
  • 請求/検収/RMA/契約の3点照合が自動化されている
  • 月次ネットティングでのみ相殺清算している
  • ダッシュボードで却下率・承認TAT・売上比率が見える化されている

FAQ

Q. 大口量販が“慣例”として控除してきます。どう止める?

相殺禁止+事前承認+根拠書類の条項を根拠に、未承認分は支払明細で差戻し。以後は月次ネットティングへの参加を条件化し、契約更新時に算式と上限を明文化します。

Q. 実務負荷を下げるには?

チャージ種別コードの標準化と、3点照合の自動化が最優先です。高額・高頻度先だけ人手レビュー、その他は機械承認/却下に振り分けます。

Q. 返品と欠品ペナルティが混在します。どう仕分ける?

RMA(CB05)は承認番号と数量・状態を基準に、欠品/遅延(CB01)はPO・納入実績で判定。コードと根拠書類で機械的に分岐させ、相殺は当月限定にします。

ご相談・支援メニュー

  • 取引基本契約の相殺/チャージバック条項と算式・上限の整備
  • デビットノート承認フロー・テンプレ・ポータル設計(通知文面付き)
  • 3点照合の自動化とダッシュボード(却下率・承認TAT・売上比率)実装
  • #69ネットティング/#71契約/#72証跡/#74出荷判定との一体運用構築

相談してみる(無料) 関連: サービス事例

本記事は一般的な情報提供です。相殺・チャージバックの可否や運用は契約・商流・法域により異なります。導入前に最新の一次情報と専門家の助言をご確認ください。

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Shige