多通貨・多チャネルの回収ダッシュボード設計(実装編)

多通貨・多チャネルの回収ダッシュボード設計(実装編)

回収が難しくなるのは、通貨×チャネル×例外が交差した瞬間。#72 証跡一元化#73 EWSを土台に、 DSO/CEI/期限超過率/相殺率を統一定義、為替換算・チャネルP/L・SLO運用まで“経営が使える”ダッシュボードとして実装します。

全体像:設計原則

  1. “一枚で意思決定”:売上→請求→入金→相殺/返品→回収→法的保全(#75)を1画面で追える。
  2. 定義先行:指標は定義書=唯一の真実を整備(#63)。式・分母分子・除外条件を明文化。
  3. 案件ID紐付け:全カード/チャートから1クリックで証跡(契約/検収/請求/督促)へ(#72)。
  4. 多通貨標準:機能通貨と報告通貨の二軸で集計、TTM/期中平均/期末を使い分け(#69/#77)。

指標定義(グローバル統一)

指標定義(要約)注意点
DSO(回収日数)期末売掛金 ÷(過去90日売上/90)返品・相殺・貸倒引当を控除した純売掛で算出
ADD/CEIADD=平均回収日数、CEI=(期間内回収高−期首超過)÷(期間内回収可能高)CEIは回収効率を反映、前年比で追う
期限超過率超過残高 ÷ 総売掛残高バケット(1–30/31–60/61–90/90+)別に表示
相殺率承認済み相殺額 ÷ 総売上#76の承認フローを通過した分のみ算入
回収率当月入金 ÷ 当月請求(現金売上含む/除くの両方)チャネル差異を可視化
EWS赤比率#73のスコア赤件数 ÷ 総顧客件数赤/黄/緑の推移をトラック

為替換算と集計粒度

  • 換算ポリシー:請求・入金・残高は取引通貨で保持し、表示は報告通貨に換算。売上は期中平均、残高は期末レート、キャッシュフローは実勢レート。
  • 多チャネル集計:直販/代理店/EC/サブスクは別レイヤで集計し、P/L影響(サーチャージ/相殺/販促費)を反映(#76/#77)。
  • タイムゾーン:日次はローカルTZ→DWHでUTC正規化→表示で地域再適用。

可視化(レイアウト&主要チャート)

ヘッダKPIカード

  • DSO / CEI / 期限超過率 / 相殺率 / EWS赤比率 / 回収率

トレンド

  • 月次DSOと期限超過率の二軸ライン。
  • 回収率×サーチャージ適用額の積み上げ棒(#77)。

バケット分析

  • 超過バケット(1–30/31–60/61–90/90+)のヒートマップ。

セグメント別P/L

  • チャネル×通貨×顧客ランク(A/B/C)で真の粗利(相殺/販促/サーチャージ込み)。

テーブル

  • 顧客別:与信ランク・枠使用率・EWS色・期限超過額・例外承認期限(#74)。

セグメント&ドリルダウン

  • 軸:地域(国/拠点)・通貨・チャネル・顧客ランク・商品群・与信スコア帯。
  • ドリル:国→顧客→案件→請求→入金→交渉ログ(#66)。
  • 比較:前年同月/移動平均/目標(SLO)との偏差を上段にスパークライン表示。

アラート・SLO・チケット連動

  1. ルール:#73のR1〜R5(枠逼迫・端数入金・失敗決済等)を赤/黄で通知。
  2. SLO:赤は90分以内着手、黄は当日内。未着手は自動エスカレーション(#73)。
  3. チケット:通知→テンプレ差込(#66/#76/#77)→案件IDに記録(#72)。
  4. 出荷制御:赤は#74の自動ホールドAPIを発火。

実装ステップ(データモデル/ETL)

  1. データ辞書:指標定義・コード体系(値引/相殺/RMA/チャージバック)を策定(#72/#76)。
  2. スキーマ:Fact_Invoice / Fact_Receipt / Fact_Dunning / Dim_Customer / Dim_Currency / Dim_Channel / Dim_SLA / Bridge_Case(案件ID)。
  3. ETL:販売/会計/収納/契約/検収/決済ログを日次バッチ+イベント(決済失敗/例外承認)。
  4. 換算:Dim_FX(レート表)で取引通貨→報告通貨に換算し、為替影響を別科目で保持。
  5. 可視化:ロール別ビュー(経営/財務/営業/債権)を用意、KPIの編集は管理ロールのみ

権限・監査ログ・データ品質

  • 権限:金額閲覧/顧客名匿名化/案件閲覧の行レベルセキュリティ。
  • 監査:指標式変更・フィルタ条件・抽出結果の監査ログを保存(7〜10年)。
  • 品質:未照合取引・欠損・重複はデータ品質カードで可視化し、日次で修復TATをKPI化。

よくある失敗と回避策

  • 指標の乱立:部署ごとに式が違う → 定義書を先に承認し、式はダッシュボード内で開示。
  • “絵に描いたKPI”:行動に繋がらない → 各カードに標準処方箋(督促/停止/条件提示)を紐づけ。
  • 通貨混在:換算ルール不統一 → 取引通貨保持+報告通貨換算の二冊方式に。
  • 証跡未連動:数字だけで根拠が探せない → 全て案件IDで1クリック着地(#72)。

チェックリスト

  • DSO/CEI/期限超過率/相殺率の定義書が承認・配布されている
  • 請求・入金・相殺・返品が取引通貨で保持され、報告通貨に換算できる
  • チャネル別P/Lに相殺/販促/サーチャージが反映されている
  • ダッシュボードから案件IDの証跡に1クリックで遷移できる
  • #73アラートと#74出荷ホールドが連動している
  • 権限/監査ログ/データ品質KPIが運用されている

FAQ

Q. DSOとCEI、どちらを重視すべき?

両方必要です。DSOは残高の重さ、CEIは期間内の回収効率を示します。多通貨・多チャネルでは、CEIで“運用改善効果”を、DSOで“残高圧縮度”を追うのが実務的です。

Q. 通貨換算で粗利や回収率がぶれるのが嫌です。

売上は期中平均、残高は期末、キャッシュは実勢と用途別レートを固定。さらに“為替影響(FX差)”を別科目カードで切り出すと経営判断が安定します(#69)。

Q. 部門ごとに違うKPIを使っています。統一のコツは?

定義書を経営承認し、式をダッシュボード上で常時開示。異なる見方は“ビュー”で共存、式は1つに揃えます。案件IDで根拠に着地できる設計が合意形成を助けます。

ご相談・支援メニュー

  • 指標定義書(DSO/CEI/期限超過/相殺率)とコード体系の策定
  • 多通貨換算ポリシーとDWHスキーマ/ETL実装(案件ID連動)
  • EWS/出荷ホールドAPI連動のアラート&SLO運用設計(#73/#74)
  • 経営/財務/営業ロール別ダッシュボードのデザインと権限/監査ログ整備

相談してみる(無料) 関連: サービス事例

本記事は一般的な情報提供です。為替換算・KPI定義・データ保持は会計方針・契約・法域により異なります。導入前に最新の一次情報と専門家の助言をご確認ください。

投稿者プロフィール

Shige