S&OP(需給統合計画)と在庫最適化の実務設計

S&OP(需給統合計画)と在庫最適化の実務設計

需要予測→供給計画→在庫方針→収益影響を一気通貫で管理するS&OPの“回る仕組み”を、テンプレと運用ルールに落とし込みます。

全体像:S&OPの骨子

  1. 目的:売上機会の最大化と欠品/滞留の最小化。
  2. スコープ:販売・生産・購買・在庫・物流・財務。
  3. 成果物:承認済み販売計画、供給計画、在庫方針、収益影響。
  4. 原則:前提の透明化、1つの数字、意思決定の期限化。

月次サイクルと会議体

サイクル

  • W1:需要レビュー(販売・マーケ)
  • W2:供給レビュー(生産・購買・物流)
  • W3:統合レビュー(S&OP、差異解消)
  • W4:経営承認(収益影響とKPI確定)

KPI

  • サービス率、欠品率、在庫回転、滞留率
  • 予測精度(MAPE)、計画遵守率、粗利乖離

データモデルと前提条件

要素内容注意点
粒度SKU×地域×週/月需要は週、承認は月で運用が現実的
IDSKU・拠点・顧客の共通ID並行品や代替SKUのマスター整備
前提価格・販促・季節性・在庫制約変更履歴を前提テーブルで管理
制約能力・歩留・LT・最小発注量ハード/ソフト制約を区別して記録

需要予測と精度管理

  • 統計+現場情報のハイブリッド(移動平均/ARIMA/回帰×営業入力)
  • MAPE/WMAPEで精度管理、誤差の原因を価格・販促・供給欠品に分解
  • AIで異常検知(急騰/急落、季節外れ)→レビュー候補に自動挙げ
  • 確度帯(High/Med/Low)で在庫方針を切替

供給制約と生産・購買計画

供給レビュー

  • 能力・歩留・稼働率・段取替え時間を可視化
  • LT短縮のための前倒し発注/先行手配の判断基準
  • ボトルネック工程の二重化と代替委託の条件

計画出力

  • MPS(基準生産計画)とMRP(所要量計画)
  • 購買:MOQ/EOQ/価格スライド条項を反映
  • 物流:拠点別補充計画、輸送モード切替

在庫方針(安全在庫・配分・滞留)

  • 安全在庫=需要偏差×サービス水準×LTの関数
  • 配分:在庫希少時は収益貢献×顧客優先度で割当
  • 滞留:回転日数閾値でアラート→値引/移送/廃棄の基準
  • 在庫評価と減損を月次で反映、粗利乖離を監視

価格・与信・BCPとの連動

価格/販促

  • 供給逼迫時:価格スライド・サーチャージ発動
  • 滞留時:価格/販促の閾値をルール化

与信/回収・BCP

  • 欠品・延着時は与信枠と出荷条件を自動見直し
  • 赤レベル時はBCPにより代替調達・生産振替を即時実行

よくある失敗と回避策

  • 部署最適:販売と生産が別数字 → “1つの数字”を強制。
  • 前提未管理:販促/価格変更の記録無し → 予測が劣化。
  • 会議が冗長:議題が情報共有中心 → 決定と責任者を先に。
  • 在庫偏在:拠点間移送ルール不在 → 滞留と欠品が同時発生。

チェックリスト

  • W1〜W4の月次S&OPサイクルを運用している
  • SKU×地域×週/月のデータ粒度と共通IDを統一した
  • MAPE・サービス率・滞留率・計画遵守率をモニタしている
  • 安全在庫式と配分ルールを明文化しダッシュボード化した
  • 価格・与信・BCPと連動するトリガーを設定した
  • 議事は前提/決定/宿題で記録し期限と責任者を明記した

FAQ

Q. S&OP導入の最初の一歩は?

W1〜W4の会議体を定例化し、1つの数字(承認需要計画)を先に決めます。データ整備は走りながら改善で十分です。

Q. 予測精度が上がりません

需要誤差の要因を価格・販促・供給欠品に分解し、営業入力は根拠付きで運用。MAPEだけでなくWMAPEで重みづけ評価を。

Q. 在庫を減らすと欠品が怖い

安全在庫式に確度帯を取り入れ、Highは削減、Lowは厚めに設定。配分ルールで重要顧客を優先し、欠品影響を最小化します。

ご相談・支援メニュー

  • S&OP会議体設計(議題テンプレ・議事運用・KPI)
  • 需要予測・在庫最適化のモデル導入とダッシュボード構築
  • 前提テーブル・制約モデルのデータ設計
  • 価格スライド・与信・BCP連動の運用設計と教育

相談してみる(無料) 関連:サービス事例

本記事は一般的な情報提供です。需給・在庫・価格・与信の運用は業種・体制により異なります。導入前に一次情報と専門家の助言をご確認ください。

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Shige